朝になるたび思う。
　最近夢を見ない。
　原因は分かっている。あいつと会っていないからだ。
　どういうわけだか武蔵坂学園に所属してからあいつは俺の前に現れなくなった。そのために身を寄せたこちらとしてはそれで問題ないはずだ。だがこの程度のことで姿を隠したあいつから、今まで必死に逃げ回っていた俺は何なんだと思う気持ちもある。
　……ちっ。

　シャツの袖に手を通しながら、いまだよく回らない頭でぼんやり考える。
　学園生活は正直、楽しい。
　中学時代は常に怯えていて何かを楽しむ暇もなかった。あいつが誰の精神世界に潜んでいるかわかったものではなかったから。
　武蔵坂ならそんな心配もない。灼滅者専用の学校があると知った時、一も二もなく入学を決めたのは正解だった。周囲が想像以上に濃いやつらばかりだったのは誤算だが、まあ俺のクラスは他に比べだいぶ真っ当だろうからよしとする。
　むしろ俺が不快な思いをさせていないかが心配だ。中学を通して形成された俺の人格は、おそらく周りにとって気持ちの良いものではないだろう。
　いかん。またネガティブになっている。
　振り払うよう乱暴に上着を着ると、ポケットから一枚のカードが落ちた。
　スレイヤーカード。人間である証。

　夢を見なくなってから、気分が塞ぐことが多くなった。

　そんなはずはない。あってはならない。
　落ちたカードを拾い上げてポケットに入れる。決してなくさないように。

　指が震えていたのは気のせいだ。