その力を使うのは初めてだった。
悲劇の墓場、生命の残骸。
蜘蛛に貪られた末路。
それを見た時俺は平静を欠いた。

表面上はむしろいつも以上に平坦だったろう。事実、思考はとてもクリアだった。
だが俺自身でもよくわからない何かが燃焼していた。

あの時とっさに使った力。
胸に浮かんだ、ゆらぐ黒いハート。
ブラックフォーム。俺のシャドウとしての力の片鱗。

恐れていた力は、しかし危惧していた事態をもたらさなかった。
力に酩酊した感覚はない。
何かに語りかけられてもない。
ここにいるのはいつもの俺だ。

俺は義憤したのだろうか。
この俺が。

今さら。

……違う。きっともっと身勝手な理由だ。
大方死に抗いたい一心で力を振り絞ったのだろう。
そうに決まっている。

そう言い訳したくせに、またも子供が無残に食われると知った俺は一も二もなく救出に志願していた。

まったく、救いようがない。